Takechang の冗談半分 #337  93/ 3/19 15:28

プータロー日記 2>
就職ガイダンス潜入

昨日,午後職業安定所主催の一般就職ガイダンスというものがあるという情報を聞き込み,さっそくカルディア,ポラ持参で取材に行ってみた。

ま,本人が取材といっているんだけど,見掛け上は単なる失業者のおっさんが職探しに来ました,というところである。

実際会社をやめて,いわゆるUターンしていて,職がないって状態は完全にハマりなので,僕も就職希望者の一人としてガイダンスに参加してようすを見てこようということである。

場所は地域の産業センターというところ。地域産品の展示即売なども行っているところで,かなり広い駐車場が付いているのだけど,行ってみるとすでに満車状態。

このガイダンスの参加者が結構多いらしい。

ホールに入っていくとそこも人だらけ。正面に受付があって,職安の人(実際は職業安定協会という外郭団体らしい)に,「通知は持ってきましたか」と聞かれた。

このガイダンス,本来は職安に登録している就職希望者のためのもので,そういう人には案内通知が来ているらしい。

もちろん,未登録でもいいわけで,僕が「貰っていません」といったらその場で書類をかかされた。

住所,氏名,年齢,過去の職業,賃金,希望の職種,希望の賃金などを調査表に記入する。

あと,住所別に色分けされたリボンを渡されて,これは近くの企業を選べということらしい。ここに来ている企業所在地を端から端まで行っても1時間とかからないが,イナカではそんなに時間をかけて通おうという人はいないらしい。

「じゃあ,あっちに各企業の就職担当者がきていますので,一覧表で希望のところを探して,話をしてみてください」と,うすいブルーの表紙の50ページほどの冊子を渡される。

さっきから,みんな座り込んで熱心に眺めているのがこれである。中身は,企業名,資本金,概要,採用職種,諸手当,福利厚生などがずらりと書かれている。この日の参加企業は約60社。

なかなかすごい人数が机ごしに企業の担当者と向き合って熱心に話をしている。

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さっそく,カルディアでスナップを1枚。

「おい」と後ろから肩をたたかれた。振り返ってみると,むかし,僕が地元の企業で技術屋をやってたころからの就職担当者だった。

「あれ,もう見つかっちゃった」と僕。この企業と僕のいたところは資本関係があるから,地獄耳のこの人には僕が退職したことはすでに伝わっていた。

「こんどはどこにするの?」と話し掛けてくる。「うーん,どこがいいですかねえ」と僕。

「そうだなー,ウチと似たような職種というとXX工業とかどう?」今日はこの企業はガイダンスに参加しておらず,職業安定協会の手伝いで来ているということなので,まるで職安の斡旋員の口ぶりである。

「あーあそこも表示体やっているんですか。」この企業は地元ではまあまあ大手の部類であろうか。どこか1社ぐらい実際に話に行ってみようと思っていたから,僕がいた業界の会社ならば,話はマジっぽくやりやすい。

「じゃあ,行ってみます」と,この就職担当者と別れる。あれ,あっちのほうで写真を撮りまくっているのは,こないだトンキラで会った地元紙記者である。今日は表向きあくまで就職希望者であるので,バレないようにしばらくおとなしくしていることにした。

記者がでていったので,前の前の会社の就職担当者ご推薦の企業に行ってみる。希望者はだれもいなくて,担当の若い女性が一人で店番をしていた。

「あのー,」と言いかけると,「あ,どうぞこちらにお座りください。調査表を見せてください」とテキパキとしている。

調査表の年齢を見たとたん,「ウチの募集は28歳までとなっておりまして……」と早くもニゲゴシになられてしまう。

「あーそうですかあ」と案内を見れば,常用 設計・開発職 2名 大卒以上 男女 22〜28歳 となっている。

「でも,まあ登録だけはして行ってください」というので,それではと書類を書きかける。

そこに課長の人が戻ってきた。僕の調査表をみるなり,「ウチは28歳までの募集ですから,条件が合いません。」即座に言われてしまう。

ふん,どうせあたしゃじじいだよ。

よくいわれることだけど,ある程度自社の能力に自信を持っているところはまだ「他社の色の付いた人」というのを嫌う傾向があるようだ。

現場の製造工とかであれば特に制限がないようなものの,技術とか設計とかつくと途端にそうなのである。

「でも一応案内は聞いて行ってください」と暇を持て余した様子の課長がいう。

多分,この条件では来た人の多くが当てはまらないと最初からこないのだろう。実際,「ウチあたり,東京で説明会をやれば100人以上ならんじゃって,整理が大変なんです。で,春には新卒が50人ぐらい来るし,そっちの配分があるから,できるだけ中途の人は欲しくないんだけど,付き合いでこういうところにも出なくてはいけないものでね」と課長は言った。

ま,この地域では結構トップの方の企業であるという自信だろうか。

製造品目は時計,精密機械,OA部品,パソコン,液晶表示体。
(なにやら,NEC互換機メーカーみたいだけど,あそこは全国区の企業で,ここは地方区という感じ。でも,超大手IBM互換機メーカーのOEMをやっているのだそうだ。)

いろいろ会社の様子を話したあげく,表示体の話になる。

「で,何を作ってるんですか,STN? TN?」と僕。「何をって,液晶ですよ,こうしてガラスを二枚張り合わせてね……」というようなことでこの課長,じぶんちの製造品目が何であるかも全く知らない。

技術とか言って募集を掛けようというのにこれでは,やはりある程度専門的な知識のある人とは話になるまい。で,社内で育てられる28歳まで,という募集になるのだろう。あるいは,年功賃金制だから,年があるていど行っていると金額は多く払うことになり,それでハズレだと困る,ということもあるかもしれない。

さらには,昨今の経済情勢で人手あまり現象でもあるのか。

そのあたりをチラっと絡んでみると,強気だったこの人がちょっと弱気なところを見せた。

「いやあ,昨今の経済事情だとね,当社も中国あたりに生産を移さなければならないかも知れないし,国内を空洞化させるわけにはいかない,と思っているんだけど……」

「中国って大陸のほうですか,台湾とか,韓国は?」と僕。「台湾なんていまやアンタ,内容によっては日本が技術指導してもらわなくてはならないぐらいでしょ。大体,ドルの準備高だってあっちのほうが多いんだから,日本なんかよりよっぽど国力がある。強いよ」という。

このあたり,エスカルゴ日記の論調と同じである。なるほど。

で,中国の香港よりのところは日本企業も大量進出しており,ここの状況はすごく魅力的であるという。「とにかく,去年行ってみたんだけどね,案内の人のいうことには,18〜20歳ぐらいの組立要員の女性200人といえば200人,300なら300人今日いえば明日には揃える,とこうだもの……」

日本では人数もおいそれと見つからないし,賃金も高い。で,中国に出ていきたいけど,日本を残して出ていくには,売上が飛躍的に上がる前提がなくてはならず,それは経済情勢からして難しい,でも競争力の意味ではそうしたいし……,抱えている従業員をどうするか……,企業としては中国に行ったほうがいいに決まっているけど,日本人として考えると日本の空洞化は他人の問題ではない……,とか全く今の日本の製造業のナヤミそのものをここでも抱えているのであった。

ちょっと話がシメリっぽくなったので,「じゃ,どうもありがとうございました」と席をたった。

出てくると,また受付に前の会社の就職担当者がいる。「どうだった?」というから,「いやー,オジーはいらないそうですよ」というと,「じゃあ,XX電子は?」とかなんとか斡旋したい口ぶり。

「いや,ぼくはすぐに企業に就職するつもりはないから……」と遂に本音をバラしてしまった。「あそー」ということで世間話が始まる。

この人の会社もこのところ受注が2〜3割は減っていて人あまり状態なので,今日もとくに募集はしていないのだとか。

「この地域は下請けばっかりだからねえ,経済情勢の影響はモロに受けるんだよね」ということで,定期的な補充の必要なところ,次を狙う内容のあるところ,などが募集の中心だということだった。だから,募集は出されているものの,実際にはそれほど雇用される人は多くないのではないか,とのこと。

「たいへんですねえ……」つい人ごとのように言ってしまったぼくであった。でも,行くまで思っていた以上に今の日本経済の情勢は暗いらしいのである。なんとなく,そんなに不況といってもひどくない気がして,「マスコミ不況」だと思っていたけれど,案外これからジワジワと効いてくる,そんな状況なのかもしれない。
(就職相談のようす写真はGVM9に掲載。すごい人数と書いたのだが,写真でみると案外たいしたことがないように見える。これは「壁の花状態」の人が多くて実際に相談しにいかず,壁際のイスで資料を見ているのが多かったから。)

竹中 俊

Takechang の冗談半分 #337  93/ 3/19 15:28