Takechang の冗談半分 #393  93/ 6/14 23:41

プータロー日記 32>
日本の大技術

「山根一眞の日本の大技術」。土曜,日曜とお昼にBS2で放送されていたが,ご覧になっただろうか。

基本的には現在も週間ポストで連載されている「新マエストロ名匠列伝」で過去に連載された内容である。

やはり映像(写真)はいい。週刊誌の対談ふう連載では今一つ内容がつかみにくかった事,実際のようすなどがつかみやすい。

1)明石海峡大橋 長さ4kmの長大釣橋
中央部橋脚の長さが1990m。ニューヨークのゴールデンゲート橋は1280m(1937年),現存する橋で一番長いのが英国のハンバー橋1410m(1981年製),このほかベラサノ・ナウロス橋,マキノ橋,ジョージ・ワシントン橋など,アメリカの長大橋は1930〜1960年ころにつくられたものである。この明石海峡大橋は今世紀末に完成するが,現在建設計画がはっきりしている中でダントツの超巨大橋である。
2)地下鉄南北線を掘るシールドマシン
トンネルを掘りつつ,掘った土砂を搬出し,さらに壁にコンクリート壁を張り付けていく。サンダーバードの中に入っているやつとか,バイキンマンのもぐりんでは役にたたない。あれでは掘った土砂のいき場所がないからだ。同様の日本製マシンが英仏海峡トンネルのフランス側も掘った。
3)新しい羽田空港滑走路をつくる技術
滑走路用地は,東京湾のヘドロを埋め立てた場所である。自然に放置すれば約1000年間に9mほど沈下してしまう。砂袋の柱を埋め込んで水分を排出する技術。さらに沈降した分を一晩で水平までジャッキアップし,コンクリートミルクを流し込んで固める技術(ジャンボジェットは離陸重量300tに及ぶ巨大な質量が離陸速度300km 以上……F1より速い……でつっぱしる。だから,ほんのちょっとのでこぼこでも,重大事故の危険性があるのだ。それをこういう超軟弱地盤でも可能にする技術)。
4)要素技術
超精密ネジを大量生産する技術。超精密バネを大量生産する技術。CDレンズやレンズつきカメラを可能にした,超精密非球面プラスチックレンズ加工技術。超精密加工を支える超精密ダイヤモンド切削刃。精密磁性体粉(ビデオテープ,フロッピの原料),精密爆破技術(思ったところを思ったように破壊する),水でコンクリートを切る……超高圧Waterジェット。

いづれも世界一の連発である。それどころか,その会社の,その人しかできないとかいうのもある。

精度0.02ミクロン!!という硬度計用ダイヤモンド圧子などはそうだ。

これを極端な例として,超精密(で,巨大だったり,小さかったりする。大きいからラフということはまったくなく,たとえば明石海峡大橋の橋脚のブロックは40ミクロンの精度である)技術を突き詰めていくと必ず一人のマエストロ名匠にたどりつく。

精密機械で量産されている大元はやはり匠の技だったのである。

0.3mm径の超精密ネジを押し出す精密金型の仕上げは表面精度1ミクロンである。この精度をどうやってだしているかというと,おばさんの長年のカンによる研磨なのである。このことそのものは賞賛に値するものだ。

これが1つの特徴。

もう1つ,世紀の大技術を支える特徴は,膨大な周辺技術とそのまた高度な技術。日本の技術の特徴である,すそ野の広さということだ。

羽田空港をヘドロの海の上につくる技術というのは,なまはんかなものでない。もちろん表面に見える技術はヘドロに砂柱を打って乾燥させるような土木技術である。

しかし,この砂柱を打つ機械は機械技術の結晶である。また,一晩で固まるコンクリートミルクなどは化学技術の結晶,常時沈降量を測定し,不等沈降があれば,すぐさまその部分をジャッキアップする技術などは土木,機械,電子,ソフトウエアのマルチ技術の集大成であるといえる。

すべての科学技術,産業がバランスよく発達してはじめて,それの連携を必要とするこのような巨大技術が可能になる。

以前GVで物議をかもした?日本の自叙伝の場合は電子技術という1つの技術にスポットがあてられたものであるが,実は日本で発達しているのはそれだけではないということなのである。

それだけ総合的に優れた日本の技術ということができる。

いっぽう,これは一人勝ちの技術ということだ。

何でもかんでも世界一の技術が日本にある。日本の力を合わせたものだけで,(極端にいえば)どんな分野でも世界一のものができてしまう。

日本人にとっては本当にありがたいことであると思う。何でもかんでもイチバンいいものが日本で手にはいる。

だけど日本人以外の人にとっては,おもしろくもなんともないのではないか。

何でもかんでも日本がイチバン。アメリカの粋を集めた技術,ドイツの粋を集めた技術が2番目3番目,しかもどの分野でも。となったら,アメリカやドイツの人はおもしろいだろうか。台湾や韓国,英国やフランスの人はどうか。

逆に日本が2番目3番目であった事を考えてみればいい。

太平洋戦争というのは,自分じゃあ偉いと思っているのに,常に5番目10番目としか見られなくって「おもしろくなかった日本」が起こした戦争である,というとらえ方ができるのではないだろうか。

個人ベースで考えてみても,俺は平凡な男だ,だけど釣りをさせたら村じゃあイチバンというような,なんか「オレはこれ」というのがあるでしょう。

逆に,何でもかんでも人より劣るというのを感じさせられた,というのが多くの非行のもとになっている。

逆の意味で「勝ちをゆずる」ことのできない一人勝ちの人もまた人と共存できない。

国レベルでいえば,いかに「よその国の取り分」を残して行けるか。あるいはよその会社の取り分をのこしていけるか。

このことがこれからの日本の課題であると思う。何でもかんでも日本,とか小さくいえばオレとか,ウチの会社というのはもうダメなのである。

政治の腐敗ということが言われるがこれも同様である。何でもかんでもオレのところに橋も道路も空港もなくてもいいではないか。

橋をかけたら,道路はほかのところでつくってもらえばいいのではないか。

小さいところから大きいところまで,何でも覇権主義を変えていく事ができるか。

大げさかもしれないが,このことにこれからの日本がかかっているのではないだろうか。なんでもかんでも1等賞という「日本の大技術」をみて,こんなことを考えた。

竹中 俊

Takechang の冗談半分 #393  93/ 6/14 23:41