Takechang の冗談半分 #404  93/ 6/29 17:11

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抜くことと抜かれること

Honda City

8年間,13万キロのあいだ愛用してきたシティがまた車検をむかえた。

どうしようか,と,このところ悩んでいた。お金はないし。

が,ホンダ車の常でエンジンはいまだに調子いいものの,ボディのヤレがそうとうに進んで,信頼性はだいぶ低下してきた。

金銭的に考えれば車検は20万円ですむから,できたらあと1回車検をとりたい。車の現実からは,もうちょっと限界にちかく,それに我が家の家族構成からすると,もうすこし大きい車が欲しいという声もあった。現在7人の人口ぜんぶで出かけるためには2台ででかけねばならず,なにかと面倒なのである。

あと,我が家の駐車場所がせまくて,シティ以上のサイズでは入らないという問題もある。

そんなこんなをいろいろ考えたあげく,スバルドミンゴというワゴンに行き着いた。これは,元が軽のサンバーで,それに1200ccのエンジンをのせたもの。

だから,長さはシティと同じだし,軽の乗員規制も外れるから,7人乗りである。あと,お金の問題は新車はとても高くて買えないから,中古にした。

1週間ほどまえにやってきて,その辺を走りまわってみた。

こんな小さい車ながらほんとに7人乗って,そんなに窮屈でもないし,あるいはリアシートをたためば4人乗ってかなりな荷物がつめる。

こりゃいいや,ということでそのうちちょっと遠出でも,と思っていたら,昨日,いつものカメラ屋の大将から,写真の注文がきた。

「カメラ店の店頭サンプルにするから,ポートレートをいくつか撮ってくれ。被写体は,小さい女の子,レンズはキヤノンのソフトつきを貸す」ということだ。

一瞬,「ヤリ! ついに写真の仕事がきたぞ」と思ったのだが,冷静に考えると,これはどうも,あまりうまい写真では客がビビってしまうし,かといってまったくなにも分からないヤツでも困る,ということでちょうどうまい具合にヘタなカメラマンをさがしていたら,それが僕だった,ということだろう。その上,うまい具合にうちには被写体になりそうな子供は2人いるから好都合だ。

このところ雨ばかりだったが,運よく昨日はうすぐもりという撮影最適日だったので,それ,と撮影にでかけることにした。

岐阜県恵那郡明智町

目的地は岐阜県の明智町,またの名前が大正村というところにした。「大将に頼まれたから大正村」というわけでもないのだが,それ以外近くの観光地的なところはほとんどいってしまっている,という理由もある。

大正村というのは国鉄末期に高峰美枝子さんを村長にして,上原兼さんとフルムーンという企画で売り出したところである。

家からは100kmほどある。当然高速を使うことにした。

ここで大誤算発見。

シティと同じ1200ccという排気量ながら,シティはターボつきで110HPあって,車重740kgなのに,ドミンゴは52HPで940kg,200kgも重たいものを半分以下のパワーで引っ張るのだから結構厳しいのは最初から分かっていたが,それにしても,なのである。

恵那山トンネルに向かっての登りでは,なんと2速しか入らず気息えんえん。かつて,暁の超特急といわれていた僕だが,エンジン全開2速70kmで登坂車線を登るヒトになってしまった。

実は遅いのはディーゼルのトラックなどいろいろ乗ったし,単に遅いといっても,許せる遅いヤツというのもある。

この車の場合はただ遅いというだけでなく,エンジンがダルくてプルプルプルプル,タコメータをみればそこそこまわってはいるのだが,なんというかケナゲにマジメに働いたけどこれ以上は走れないの,ごめんしてね,というようなマジメさが感じられないのである。

一番ムカツクタイプのエンジンである。

「しゃーねーから,一応まわっとこ。あー,あほくさ」とヨージでもすすっている(んな,エンジンがあるものか)イメージなのである。

とにかく,どうあがいてもそれ以上は出ないので,おとなしく左側を走るが,これでは当然高速を走る最低速車の部類である。

大型トラックといえども,いまはほとんどターボ装備だから速い。ガンガン抜かれていく。いままでは抜く一方のヒトだったから,少なくも自分の車でこんなのは初めてである。大型トラックもこっちもほとんど食パンにタイヤがついたような格好だから大型トラックに抜かれる時の風圧は結構きつい。横にあおられる。

自分のほうが圧倒的に速ければ,「あそこのコーナーでこういうふうに抜く」なんてのは自在だし,たまに意地の悪い運転手がいて抜こうとしたとたんに加速をはじめたりの嫌がらせをしても,加速力が圧倒的に違うから何の問題もない。

ところが,遅いのが抜かれるのはこれより非常に難しいのである。

風圧を食らうから,できれば直進状態のときに抜いてもらいたいが,抜くほうのが圧倒的に速いので,どうにもならない。しっかりステアリングを握って耐えるだけである。

ぶつかる寸前までつっこんでくるトラックもあるが,こういうのもミラーに見えていてもなすすべもない。

あるいは,あまりに遅いので追い越しにかかると加速するトラックもある。悲しいかな,そのトラックより加速力がないので,追い越し車線の後ろからBMWにパッシングされても,なんとかトラックに先に出てもらうまではどうにもならない。

ほとんど,あなたまかせであって,主導できることはほぼ何もないのである。走行車線にはりついていても,後ろからの突っ込みや前に割り込みがあるから,一瞬も気を許せない。

逆にポルシェだのベンツが抜きまくりなんてのは,本人はハナタッカダカかもしれないが,相手のほうが逃げるから案外簡単なものだ。

これを,無理に経済情勢にひっかけることはないかもしれないが,実際のところ,経済もそうかもしれないという気がする。

一人勝ち方式でやってきたところ(日本)は,抜かれ方,負け方を知らない。かえって,そういうのはただ,性能がいい,価格が安い,というのでガンガン押しまくればいいだけなので,カジ取りはらくなように思う。

抜かれつつ事故らない,沈没しないノウハウというのは結構難しいのではないか。これから(の日本は)やっていけるのかな。高速の最低速車になって,なぜかそんな事を思った。

実際には,別にぶつけられもせず,撮影は無事こなして帰ってくることができた。

今朝起きたら腕がいたい。相当に力が入ったということだろう。あまり遅いのはたまらない。やっぱり,こりゃあターボぐらいいるかなあ。

竹中 俊

Takechang の冗談半分 #404  93/ 6/29 17:11