Takechang の冗談半分 #544  94/ 5/19 0: 6

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パワーブック

GVMの取材は現地主義,現場主義である。

ショーの会場やその他,何かの起きている場所に実際に自分で行き,自分の目と耳と足で確かめる。そういうスタイルである。

それでなくては自分の目でみた等身大の情報ではないと思うからである。編集長の高田さんなんかは本当にそれが徹底しており,それこそ世界中どこまででも情報のあるところを追いかけていく。

僕はまだ,いろんな制約があってなかなかそこまで徹底できない。時間やお金や能力やいろいろの理由でである。

でも,気分はどこにでも出かけて自分で取材したい。むんむんとすごいひといきれの晴海に集まる人たちもそういう気持ちからやってきているのではないか。

マルチメディアというけれど,それはどうなっているのか,自分の目で確かめたい,そういう思いでやってきているのだと思う。それは,マルチメディアでいうところのディマンドという考え方に通じるものだ。ところが,というのが今回のお話。

今回のビジネスショー会場で僕らは各自で取材し,その後見落としたところ,再度見たいところは全員で行くという取材を行なった。

以前,アップルはBSなんかには出てこず,プライベートショーのようなものだけで発表したりする企業だったけれど,今年のBSではアップルブースは南館1Fの半分を占領するほど広いスペースで展示を行なっており「気合いが入っていますね」という話をしたものである。

ただ,アップル社自体の展示はほとんどなくブースはほぼサードパーティの人ばかり,受付はコンパニオンで,実際にアップル自体の広報を担当する人は見かけなかった。

これはどういうことなのだろうか,とちょっといぶかしく思った。

特に,パワーPCマシンはかなり以前に発表されて知っていたが,パワーブックの新しい機種がさりげなくサードパーティのハード・ソフト展示に埋もれて置かれていたのに注意がいった。

僕自身,パワーブックを持っているから判っているのだが,従来のパワーブックではキーボードの手前に大型のトラックボールが搭載されており,それをマウスの代わりに使うようになっている。

ところが,薄ぐらい会場の(ほんとに日本のPCショーの会場にしてはめずらしく?全体に暗幕でかこっていて,暗かった)片隅に展示されているカラーのパワーブックはこの部分がパッド状になっており,指でなぞることにより入力するらしい。

カラーTFTの液晶表示も僕のもの(8.5インチ)より一回り大きく,どうも9.5インチタイプらしい。

詳しい話をきこうと思っても,ブースの人はサードパーティの人で「アップル製品自体の詳しいことは判りません」というし,受付で聞いても「ブースに何かあるのではないか」というだけで,まるでラチがあかないのである。

PowerBook 540c

会場に居る段階で僕に判った情報は,パワーブックは540cというのがカラーTFT 9.5インチ搭載,あと520cがSTNカラー,520がモノクロで,なにやら500シリーズという新機種が出ているらしいこと。

それはトラックボールではなくタッチパネルのようなものをマウスの代わりに装備していること,そのとなりにあったDuo 280cというカラーDuoもどうやら新型らしい,という事までであった。

あとで記者室にも行ってみたが,ここはCOMDEXなどと違っておそろしく貧弱でほとんど広報資料なんてない,ので当然アップルの資料もなかった。

昨日までの新聞ではこの機種のことはなにも触れられていないし,会場でもわけがわからないし,どういうことなのだかなあ,と思ったものである。

家に帰ってきてから調べると,BBSのアップル広報コーナーにはこの機種の事がアップロードされていた。やはりこれは新型パワーブックで,プロセッサは68LC040という新しい省エネプロセッサを使っていることなどが判ってきた。

発売は17日から,となっているからやはりBSに合わせて発表したのだろうかなあ,と思った。で,今朝の新聞をみてみるとやはりそのように発表されている。

これだけだったら,まあ普通だが,新聞の雑誌広告らんを見てびっくりしてしまった。

「第二世代パワーブック特集」,「速報!新パワーブック」などの文字がならんでいるではないか。

ちょうど18日が多くのパソコン誌の発売日だから,それらの広告が新聞一面のしたのほうにならんでいるのだが,「MAC XX」とつく雑誌の広告には軒並「新パワーブック」の文字が入っているのである。

これらは月刊誌であるから,合宿で聞いた編集者の人の話だと文字原稿の締切がぎりぎり1週間前,写真はもっとずっと前だということなので,そうかわらない締切で原稿が入っていなければ記事がのせられるはずがない。

実際に本屋に行ってみると,特集するだけの量の記事とともに,外観だけではなく内部やメモリボード,パワーPCと交換するためのプロセッサ用ドータボードといったおびただしい量の写真まで出ているのである。

これはもう相当に前にMAC XX誌には情報が渡っていたということでなければならない。

一方では「パソコン総合誌」みたいなのには,パワーブックのパでもないのであるから,どうもアップル側が選択的に情報を流した,そしてそれをもらったところだけが,パワーブック発売日の翌日の月刊誌で特集を組めた,という解釈にしかならないと思う。

いままでも,PC雑誌の「よいしょジャーナリズム体質」などの事はいろいろ言われてたが,ここまでろこつなのはさすがに僕が知る限り例が無いのではないか。

「言うこと聞く人だけ教えてあげる」という,なんだか小沢さんのマスコミ操縦みたいな手口だ。

GV合宿で話題になっていたマルチメディアというのは,オンディマンド(情報はすべて開示されていて,それをユーザ側が必要なだけ受け取る)式は果してそういうことが受け手にとっていいのかどうか,というような議論だったのだが,これではとてもそんなお話にならない。

そもそも送りだし側が情報の出し方を絞ってしまって,与えないのであるから。

でも世の中がマルチメディア,マルチメディアと騒ぎだし,いわば新参マルチメディア派のNECなどが「マルチメディアのNEC」と言い,「マルチメディアとはオンディマンド」と言い出したこの時期に,「初めからマルチメディア」で,「マルチメディアの総本山」だったアップルの広報がこういう具合だというのは考えてみれば面白い現象でもある。

ビジネスショーのテーマは「時代はOPEN……ビジネスが変わる」だそうであるが,実際はマルチメディアの総本山がオープンでも変わってもいなくてほとんどその対極にあるという事実はどういうことなのか。

マルチメディアなんて口で言ってもしょせん現実はそんなものなのさ,ということなのか。あるいは,マルチメディアなんかとは関係なくこの会社の体質なのだろうか。そうすると,企業自体のポリシーとは関わりなく製品はできていくということなのだろうか。それともその製品も,そんなものということ……?

竹中 俊

Takechang の冗談半分 #544  94/ 5/19 0: 6