Takechang の冗談半分 #368  93/ 5/ 5 0:42

プータロー日記 18>
ザ・カメラマン

5月3日,大鹿歌舞伎の定期公演の日である。

この日,写真教室のS講師が東京からの友人と大鹿村の写真(風景,花など)を撮りにいき,ついでに歌舞伎の写真も撮るということなので,「ぜひ!」と頼み込んで同行させてもらったのである。

集合時間は朝7時。僕には普通は「明け方」の時間であるが,カメラマンにとっては,「遅い」出発時間なのだそうである。日の出,朝露,朝もや,その他朝でないと撮れないシーンというのは数多いということから。

集合は農協駐車場。7時ぴったりにSさん登場。

1)カメラマンは時間正確(これはどの商売でも必要な事である)。

東京から来た人たちは千人塚のキャンプ場にある民宿に泊まっているので,そこまで迎えにいく。途中で,Sさんは無人販売の店に寄っていく。「取材先のY氏の家に持って行ってやるんだ。彼はあまりヘンなもんは食わんから。」Y氏とは大鹿に住み着いているチェコ人である。

5月1日に東海TV系列で「オオシカの村」というドキュメンタリー番組を見た方は,あの中に出てきたひとである(長野ではNBSで5月2日だった)。

大鹿でもいちばん奥の集落に住み,織物をして暮らす。英国から来たC氏も隣に住んでいる。このオオシカの地元の人に打ち捨てられた集落には,ほかにもシンガーソングライターや無農薬栽培のひとなど,TVに出てきた人たちが,まるで仙人のような暮らしをしており,その人も,生活も,実に魅力的な被写体なのである。

2)カメラマンは気配りが必要(これもやっぱりどの商売でも必要)。

千人塚に着くと,東京から来た男女5人のカメラ集団はもうすでにまちかまえていた。

長野県下伊那郡大鹿村
撮影地ガイド(大鹿村)

大鹿は夏,秋,春とこれで3回目になるとのこと。しばらく打ち合わせをしてから,Sさんの車と僕の車に分かれて乗って出発。

花や風景を撮りながら昼頃までに歌舞伎舞台に到着,1時からの歌舞伎に備えることになった。

途中,林道を走りながら「ここ」というポイントでSさんは車を止める。するとそこで車を降りては撮影,また走るというわけである。

動物写真家,宮崎学さんのフクロウ撮影場所というところもあった。林道は放射状に延びているから,1つ分かれ道をまちがうととんでもないところに行ってしまうが,Sさんは林道の地理に実に詳しい。自在に林道を抜けていく。

3)カメラマンは地理にも詳しくなければいけない。

あちこちにコシブダムのダム湖にそそぐ滝が出来ていた。昨日の雨のせいで,出来た滝で,普段はない。写真のアクセントには絶好である。

4)カメラマンは天候などにも詳しくなくてはいけない。

いろいろ撮ってから,村の観光案内所へ。すでにたくさんの県外ナンバーの車がつめかけている。みんな歌舞伎をあてにきた人たちである。顔なじみの案内所のおばさんにお茶をもらって,Sさんがもってきたきのうのオオシカのビデオを見ながら昼食をした。

いろんな人があつまってくる。「このひとがXさん,陶芸家。このひとはXさん……」Sさんはじつに人の名前をよく覚えている。僕は特に人の名前が覚えられないほうなので,ひどく感心してしまった。取材先で,1回会った人の名前を覚えているといないでは次に行ったときの相手の印象が違う。

5)カメラマンは物覚えがよくなくてはいけない(う,僕は物覚えが悪い……)。

12時すぎには歌舞伎舞台に移動した。

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開演は1時であるが,すでに多くの人が集まっている。開演後,ざっと数えてみたところでは1200〜1400人ぐらいの人が入っていた。

さらに驚いたのはカメラの数である。ハッセルブラッドやら,マミヤといった大きいカメラから,一眼レフに300mm,400mmという超望遠を付けたのやら,あるいは3板式の大型ビデオカメラといったのの三脚がところせましと林立している。

TVの取材もTSB,NBSなどの社名いりのハデなジャンパーをきた人たちが大勢はいって大型のテレビ用ビデオを動かしている。

ただ,大方は200mmクラスまでの望遠であり,「見物のじゃま」ということでふつうのカメラはいちばんうしろに追いやられているから,ちょっときつかったかもしれない。

さらに,歌舞伎舞台はかなり暗く,僕のシグマズーム(210mm時f5.6)+ケンコー1.5倍テレコンバータ(1絞り暗くなる)では開放でも1/60〜1/30がやっとだった。

このため,一脚を使って撮影した。

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ときどき,舞台の裏の方にカメラを持って出かけていく人がいる。「なんだろう?」と思って僕も行ってみると楽屋の撮影をしているのである。

ただ,一般には楽屋は「カメラマンお断り」。一部のカオのきくカメラマンのみが中にいれてもらうことができる。

ぼくはSさんの弟子ということで入れて貰うことができた。歌舞伎保存会のハッピを着たSさんはフリーパスである。

くっついてあるいて,いくつか貴重な楽屋写真を撮らせてもらうことができた。ひごろの手伝いや広報写真のほか,現場でも裏方の手伝いなど,実にSさんはコマメにやっている。そして,裏方さんのじゃまにならないよう,怠りない。

6)日頃の努力がいい写真の元。

この日の歌舞伎は2本。1本が「一段」と呼ばれる1景ものになっているが,実に悠長な芝居なので,1景でだいたい1時間半ぐらいかかる。

2本目の途中で切り上げてまた山の方に向かった。

いちばん奥の集落にY氏を訪ねた。Y氏の家にはすでに大勢の人が集まっていて,宴会が始まろうとしていた。

電気と電話はこの山の中にも通じているが,暖房などは山のマキを取ってくる。このため,エントツから煙がたなびいており,これと山をからめた写真などを撮らせてもらった。

東京から来た人たちはこのあと,この集落のいちばんしたにある温泉宿に泊まる,ということで,そこまで送って行った。

「夕食を食べて行ったら」ということで一緒に山菜や川魚の夕食をごちそうになる。

写真の話をひとしきりしたあと,またSさんの車について真っ暗になった山道を下りて帰った。

こうして,なーんと,写真を教わり,地理を教わり,いろんな人に会わせてもらったあげく,食事をごちそうになってしまうという,実にありがたい有意義な日をすごさせてもらったのであった。

これなら,また写真家とでかけたい。

竹中 俊

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