Takechang の冗談半分 2 #11  1996/06/12 10:06

千葉の社長 ―― ちばぎん総合研究所刊『トップの横顔』を読んで

まあこの手の本にありがちなのだが,シャチョーはヨイショせねばならない。というか,それ自体がこの手の本の目的である。

従って全編シャチョーヨイショであるのは当然なのだ。

ちばぎん総合研究所

ちば銀行がヨイショするのは当然地場産業のシャチョーである。だいたい数十億から数百億の企業で,つまりまあひいき目でも大企業とはなかなか言えない,中堅とか,中小とかいうクラスの企業群である。

特徴的な事は,比較的ジサマばっかだということ。昭和生まれなんてほとんどいない。いてもせいぜい10年代まで。30年代なんていうのは皆無である。だから,主流は70歳とかの人たちである。

従って創業時期も昭和20年代とかせいぜい新しくて30年代,もっと前というのも結構多い。銀行が作った本だから,そのぐらい経過した会社じゃないと安心できないということか,それとも銀行の目はあくまでシャッチョーヨイショだから,ヨイショして(銀行の)得になるシャチョーといったらそういうことになるのだろうか。シャッチョーたちの年齢からして,自分史だのを作りたいおとしごろってこともあるかもしれない。企業規模がにたようなものでも,もっと若いヒトたちなら,こんなん作られたら「いやーてれまんなー」と頭をかいてしまうに違いないからだ。

でも,自伝的部分が多いだけに,この本を見ていると,どういうヒトがシャッチョーにな(れ)るか,というシャッチョー像といったものは比較的はっきりする。

たいていは実家がカネモチである。家業があったりする。家業を継いだヒトもいるし自分で起業したヒトもいるが,共通しているのはやはり実家に資産があったということだろう。まあ,自分で細々と始めてみて確かに実感するが,最初に資産が無い事にはなかなか起業はままならぬ。

起業という事,とにかく最初に一番のハードルがある。起業の為にはそれなりに体制を整えねばならないから,最初に資金がいるのである。でも,当然最初に売上はついてこない。

裸一貫のヒトはここで大苦労する。たとえば,いまや大企業の朝日ソーラーだって,創業の時にはほとんどカネがなかった。注文を取っても(カネがなく)品物が作れない。製造メーカーには「もし,販売に失敗したら,俺の生命保険を受け取ってくれ」と自分の命と引換?にブツを作ってもらったのである。

実家にカネがあるひとが有利なのは,けだし当然である。小数だが,裸一貫から,と言うヒトもいる。ただし,こういうヒトはどこかにたとえば商売に,あるいは技術に,何かしら完全に人並外れた所がある。

どちらかと言えば,「これから創業する人々へ」という応援なり,賛歌であるならば,もっとこういったヒトを描いたはずだし,ここででてくるより少し規模が小さい企業だとしてもそういうひとは千葉あたりにはもっといるんじゃないかと思う。

でも,銀行の研究所がそういうヒトの賛歌も唄わなければ,紹介もしない。既に安定状態である既成のそれなり企業の事を書く。これが日本だ。この5年ぐらい,僕の住む長野県の統計ではずっと企業数が減り続けている。これはつまり創業するより廃業するほうが多いということだ。

創業時のいちばん大変な時に誰も応援してくれない。だいたい,銀行でもその他の金融機関でも,自治体でも,創業後1年たてば融資に応じるという。

IMSAI

ほんとうはその1年未満がいちばん大変で,この時期に倒れてしまったり,その間が持ちそうにないから創業を断念するヒトが多いというのに。これからの日本を思うと,その時期に銀行もどこも応援してくれない体制というのは困った事だ。創業しようとして,実力のある人はみな外国に行ってしまうだろう。新たな企業は日本にはほとんど育たなくなるのではないか。つまり国そのものに活力が無くなるということだ。こまったことである。これが,やはり自由の国アメリカなんかと違うところだ。いいネタさえもっていればベンチャーキャピタリストのみならず,銀行だってカネを貸してくれる。たとえば,世界初のパソコンメーカーIMSAIはこのように銀行からカネを借りてできた会社である。社長はそれまでに3つも会社をつぶしていたから,日本なら絶対に銀行から借金なんてできないケースなのだが。

あと,結構やっぱりなあと思った事に「移入」と言う事がある。商売で成功したヒトの手法の中で1960年代とかのかなり早い時期にアメリカなりヨーロッパを見にいったというのが結構ある。

そしてたとえば「ああ,アメリカでは袋入りの氷を売っているのか,これは日本でも売ればもうかる」とヒントをもらってくる。

自分で考えたわけでない「舶来」方式というのが,情報速度の遅い時代には結構な武器になったという訳である。こういう手口が日本人は信用ならないとか言われるもとなのだけれども。

まあ,インターネットで一応世界中の情報がいながらにして手に入ってしまう現代ではもう通じない手法ではある。

それから,学ぶべきことは従業員を大切にするということ。日本やヨーロッパでは雇用の維持ということが,信用につながる。これを一貫して実践してきたヒト,してきた会社がやはりそれなりの位置にいる。

なんだかんだいっても,結局はそれなりの実績の前には頭を垂れるしかない Takechang であった。

Takechang の冗談半分 2 #11  1996/06/12 10:06