Takechang の冗談半分 #363 | 93/ 4/26 23:37 |
ライカレンズをGreat Wallに取り付けるためのアダプタは,この前NECで空VAN作戦をやっているときに既に出来ていたのだが,金曜日はそういうわけで僕が不在,土日は加工屋さんが不在,ということで今日ようやく引き取りに行った。
例によって加工屋さんはモーテル街のまっただ中にある。
もともとはこのあたりは等しく農地だったようなのだが,産業の盛衰によって?いまはなんかヘンなこういう状況になっているらしい。
ま,ノレンから覗き見したところでは,都会と違って昼間は閑散としているようなので加工屋さんも平常心?で仕事ができるのかもしれない。
古い平屋の農家の物置を改造したらしい工場のアルミサッシのドアを開けて土間に入っていった。
「こんにちわー」と声をかけると奥のフライス盤に向かっていたオカミさんがこっちを向いて,奥に向き直り「おーい,カメラの人,取りに来たよー」と声をかけた。
典型的な3チャン産業のようで,奥にはじいちゃんと今はこの工場の社長のむすこが2人で,やはりフライスを回している。
ひとなつっこく笑う社長が出てきて,「やあ」と笑った。
「これなんだけどね。えーと,カメラは家の方だったかな。おい,カメラ持ってきてくれ」とオカミさんに声をかけてからアダプタを手渡してくれる。
材質:シンチュウで注文したので,金色に輝くそれは小さい割にずしりと重たい。
お,なんと平行目のローレット(手かけのギザギザ)なんて出来ないと言っていたのにきれいにローレットが切れているではないか。やるー。
おまけに,「指示はなかったけど,内面に反射防止のケズリを入れておいたから,具合いいと思うよ」と,おやじさんがいう。
見るとなるほどカメラ側のいちばん内側部分に円状の細かい切り込みがいっぱいついている。あとでライカの交換レンズをみると確かにこれにも同じような切り込みがつけられている。
なるほど,これって単なるデザインではなくてちゃんと実用的に重要なものだったのである。このあたり,さすがにレンズ用金属部品加工X十年のおやじさんである。
余談になるが,僕の義父もリタイヤ後の小遣い稼ぎに小さな加工屋に行っている。
僕が探してきた加工屋はレンズ関係専門で,仕事は確実だと思うが,遠いので,今後の事を考えると(なに,またワッカを作るかもしれないということである)できるだけ近くで探したくて,ひょっとして父のところで出来ないか? と聞いてみた。「うちじゃあ,これは無理だな。だけど前の会社で一緒にいた人がたしかレンズ用の加工品をやっているはずだから聞いてみてやる」ということで,電話をしてくれた。
やっぱり「電話じゃ分からないから,来てみな」ということで,行ってみた。これは家から車で5分ぐらいのところである。
ここも,昔は牛舎かなんかのような作業場である。アメリカの産業はガレージで始まるが,日本では家畜小屋で始まる?
光学機器専門加工やさんと同じく,説明用のポンチ絵を見せただけで「ああ,」と,ここのおやじさんも言ったが,「10年前なら,こんなもなー,簡単に出来たんだが……。XXさんの紹介なら(うちのじいちゃんの名前)やってやりてーが,もうレンズの仕事はやめたから,冶具をみんな捨てちまってなあ……」とすまなさそうに言う。
聞けば,前の不況の時に光学関係は軒並み仕事がなくなり,ここも下請け元を電子関連のメカトロニクス方面に転換せざるをえなくなったらしかった。
産業の盛衰というのが,このあたりに多い下請け企業をみるとはっきり分かるということなのだろう。
当時の名残はこれだけ,と言っておやじさんは箱いっぱいのレンズ胴や,ピントリング絞り,フィルターフレームなどを出してきた。
「こりゃすごい」と僕が見ていると,「ほしけりゃやるから持ってきな」とおやじさんは言って,フライスの前に帰っていった。
1個いくらという仕事なので,商売にならない者としゃべっている暇はない,というわけなのだろう。
うなりを上げ始めた機械にかき消されないように大声で「じゃ,頂いていきます」と言って,箱を抱えて帰ってきた。
ということで,結局近場ではできなかったのであるが,ということは今でもレンズ関係で生き残っている加工屋というのは超熟練者クラスといえそうである。
うーん,知り合いの加工屋のオヤジはまたとない所を紹介してくれたというわけだ。
「じゃあ,お世話になりました,またよろしく」と光学機器加工やを後にした。値段? 「1品物なんで,高くて悪いんだけど……」としきりに恐縮してたが6千円。
これだけの熟練者の手間加工にしては,まあまあ安いのではないだろうか。
(もっとも,いくつか作ればずっと安くなるといっていた。やはり,図面が完全でないので,試行錯誤が必要だったということもあるのではないかと思う。)
家に帰ってさっそくライカレンズを装着してみる。
やり! こんどは近くのものもきっちりピントが合う。もっとも,きちんと測ったつもりだったが,やや補償が行き過ぎて,3mの最短距離のはずが2m強ぐらいになったようだ。
ただし,けがの功名というか,このぐらいの距離のほうが撮影上は都合がいいようだ。
室内などでもいちおう撮影可能である。ここに至って,ぼくは高田さんが気に入っている「ライカのボケ味」というのがはっきり目で確認できた。
被写界深度(ピントの合う範囲)がつねに狭くなっており,奥行きのあるものはボケでそれが表現される。「なるほど,これがライカの写りというものか……。」たしかにシグマ(キヤノン)のレンズでは見たことのない絵である。
来週の大鹿歌舞伎はこれで撮ってこようと決めた。
アダプタの最大の誤算は重さ。加工やのおかみさんが「アルミでよかったねえ,それじゃ重くない?」と言っていたが,確かにそういうことだ。
はかってみたら,122gあった。ライカレンズは645g。これもシンチュウを多用しているので重い。
これだけで軽い一眼レフ全体ぶんの重さがある。手にずしりとくるが,しかし持った感触は非常によくて,「なんだか写真がうまくなったみたいな気がする」ウヒョヒョ状態なのであった。
明日から,さっそくこれを持ってウロついてみよう。
竹中 俊
Takechang の冗談半分 #363 | 93/ 4/26 23:37 |