Takechang の冗談半分 #512  94/ 3/ 5 7: 8

プータロー日記 90>
ハイビジョン狂騒曲

先日のハイビジョン騒ぎは,日本の状況がどうあるのか,というのを顕在化させた事件?として面白かった。

ただ,本当のところは僕はハイビジョンがデジタルでもアナログでもそんなこたー知った事じゃない。どっちにしても,絵の精細度と,絵が伝えようとしているもの(たとえば映画なら映画の中身)とは別物だし,ハイビジョンTVというメディアを今使いたい人にとっても,そんな伝送方式なんぞはどうでもいいことだ。

僕は,アナログだろうとデジタルだろうと安くても70万円という値段を払う価値があるとは全く思えないから,買おうという気が起きない。ダメ押しに,買う気が出ても金がない。から,ハイビジョンなんぞ気にならない。

のではあるが,いろいろなメディアの伝えるところによると,郵政省の役人が「ハイビジョンを見直します」という発言をしてから1時間後には,日本電子機械工業会のトップがずらりとがんくびを揃えて一斉に大反対の会見を行ったらしい。

この超スピードの反対の大合唱が異例なうえ,大反対の理由がふるっていて,「なるほどなあ」と思ってしまったのである。

曰く,「現時点で実用化されているハイビジョンは日本方式(MUSE)だけ。」これは確かに正しい。今,ハイビジョンを使いたいなら日本方式しかないのである。USAやEUのデジタル方式はまだ詳細が確定しておらず,当然ブツは現れていない。

2つめ,「業界は郵政省の音頭に乗って今までに6000億円も使った(それなのに,今更MUSEはやめたとか何を言う)。」これが,今回のポイントだ。

いろんなマスコミ報道を見たけど,このことは大抵報じているのに,誰もこれにからんでいない。ただ,事実をさらりと書いているだけだ。さすがに日本の(製造業の)大企業と(マスコミという)大企業の関係だなあ,と感心してしまう。

この発言は裏を見ると,最近流行の?汚職事件と同じ構図だった事に気がつく。

だがこの場合は,おカミがいいというから(大金をつぎ込んで)開発したのに,今更やめるなどと言われてたまるか,と最後のところが変わったということだ。そして,「内容が良かろうが悪かろうが,そんな事は問題ではない。要するにかかった費用が回収できるまではやるんだ」と業界は意思表示した,ということである。かけた費用は誰か(要するにTVを買うやつ)にオッツケるぞ,ということ。

誰がどう考えても今はともかく,今後アナログの目はないというのが技術的な側面であるが,問題はそういうことでなく,経済的な問題で6000億投資したからやめられない(あるいは,メーカ自体にしても,やめるにやめられない,のかもしれない)ということだ,と業界首脳が告白したということだ。

これは日本人が「いつも通っている道」である。大昔に取ってつけた理由も無くなったにもかかわらず,「予算が付きはじめた以上終わるまで工事は進む」長良川河口堰だとか,入る企業が無くなっても埋立工事だけは続くあちこちの工業団地だとか……。

デジタル化はユーザのためになるだけではなく,本当は当のメーカにとっても有利である。なぜかといえば,日本企業は黒字を減らせといわれようと,要するに輸出で食っているのだし,ならば「日本方式がアナログだから,デジタルハイビジョンはやらない」などということがある訳がない。であれば,日本というパイしかないMUSEをやめてデジタルだけで行ったほうがよほど徳に決まっているではないか。

また,TV放送という目しかないアナログでなく,マルチメディアに広がるデジタル式のほうがおおむねコンピュータメーカーでもある大手家電メーカーの各事業分野で使えるのである。

だからして,本質的には反対する理由が業界側にもない。

それでも,あの大反対ということで,長良川とおんなじだと思ってしまったのだ。

要するに「ハイビジョンとはいろいろと問題のある代物であるのだなあ(詠嘆)」という印象を一般に与える効果が絶大だった一連の事件だった。

ま,どっちにしてももう,日本式ハイビジョンは立ち直れないのではないだろうか。

竹中 俊

Takechang の冗談半分 #512  94/ 3/ 5 7: 8